home base

駆け出しゲームプランナーの日々を綴ります。

これを読んだら「さん」くれろ。〜映画『ピンポン』を観た話〜

「月にタッチするなんて訳ないよ」
橋の欄干の上に立ち、こんな言葉を突拍子も脈絡もなく言ってのけるペコは、一体どんな気持ちだったのだろう。
思春期に訪れる己の存在意義との葛藤か、はたまた強がりか。
映画『ピンポン』は2002年公開の映画。

f:id:tyoppamax:20180327213558j:image
原作は松本大洋の同名のマンガ。
全5巻という、決して多いとは言えない巻数の中で、主人公の卓球馬鹿・ペコは、幼馴染のスマイル、アクマ、そしてライバルのドラゴンや中国人・コウと卓球を通して、自分と向き合い成長していく過程が描かれている。
その内容の濃さは数あるマンガの中でも突出しており、セリフは常に名言の応酬、ペコ始め、各キャラクター達のアクの強さ、スポーツマンガでありながら、内容は何処かオシャレでサブカルチック。
全55話という話数も不足もなく、丁度良いまとまりを作品世界にもたらしている。
今作の映画は、そんな漫画原作でありながら、窪塚洋介を始め、井浦新中村獅童夏木マリなどの豪華俳優陣がキャラクターにぴったりと収まっている。
昨今の漫画原作の映画は、特に実写は2次元を3次元で表現した際の乖離が指摘され、見える地雷、開けてはならないパンドラの匣の印象が強い。
しかし、今作は映画自体の完成度が非常に高く、私自身初めて観たときは原作がある事すら知らず、映画オリジナルだと思っていた。
その後、原作を知り、改めて観直すのだが、不思議と2次元と3次元の乖離している点が見当たらない。
ここがこの映画の凄い所なのだ。
ペコ扮する窪塚洋介も、完全にペコそのもので、全く違和感がない。
また、野球やサッカー、バスケに比べ卓球は地味なイメージもあるが、巧みなカメラワークと編集技術、そして演出で魅せる卓球は、まるで格闘ゲームの切迫したやり取りを見せられているよう。
締めのsupercarの曲もカッコよくて、これが本当に16年前の映画なのかと思うくらいに、新しく、センスに満ちた作品だった。
そんな傑作として印象強い今作だが、未成年喫煙や教師による体罰のシーンもあり、今のテレビでは放映されないだろうと思われるので、そこが非常に残念でならない。
この映画が後世までも、脈々と語り継がれるよう、私も微力ながら強がりを言いたい。
「月にタッチするなんて訳ないよ」。